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 王女様との会話

4.

その日の夕食は久しぶりに三人そろって食べた。少しだけ気がとがめた僕は(少なくとも最近一人勝手に遊び歩いていた自覚はあったので)、共同台所で料理の腕をふるった。まあ、安宿で物資、設備ともに限られた状況の中、作れたのは鶏肉と野菜の入った煮込みスープくらいなのだが。それでも二人がおいしいといってくれて、僕はうれしかった。

そして、ワインを片手に昨日倒したモンスターの話をしながら、僕の頭はともすると、全然違う事を考えるのだった。 好きかとか、惚れているのか、はたまた身体が目当てなのかという、本来の旅の目的からすれば限りなくどーでもいい、例の問題について。

ロトとアレフガルド王家の血を最も濃く継いだ、隣国の王子イグナシオ。最初に会ったとき、噂通りかっこいいなと思った。ただし、個人的な好みというより客観的にだ。

眉濃く整った顔立ち。均整の取れた長身に厚い胸板。黒髪に青い瞳なんてあたり、女泣かせの王道だ。少年らしさがまだ残ってはいたが、既に(見る人が見れば)ぞっとするような男の色気ってやつがあった。それでいて、本人がまだそれを十分に自覚してない無造作な感じがまた何とも言えなかった。そしてあの剣の腕。正直、僕は若干の嫉妬すら交えて彼を見たものだ。

でも、それだけじゃいくら僕だって、寝ない。単に、万が一そうなったときの拒否感が少ないってだけだ。実際最初のときは、まあいーか、くらいの感覚だったと思う。そもそも、直接仕掛けてきたのはあっちで(こちらも多少挑発したが)、僕はといえばローレシア人は同性愛嫌悪が強いと聞いてたから素直に驚いたものだった。

その後、間をあけてとはいえ、二度、三度と続いてしまったわけだが、それもハードな冒険っていうどーしようもなく抑圧的な状況とか、そのせいで他に相手が作りにくいとか(うかつに王女に手を出すと外交の危機だし)、単なる性欲処理とか、考えるまでもないような条件がそろいすぎていて、もう説明の必要もないね、と僕は軽く流すつもりでいた。

でも最近、時折彼の前で自分がどうしたいのかよくわからなくなる瞬間がある。ちょうどさっきのように。よく知ったはずの仲間の前で、それもこの間ヤった相手を目の前に、今更僕はうろたえた。ああいう瞬間は苦手だ。まるで、魔力のない彼からタチの悪い魔法でもかけられているような気分。

ここで更に困るのは、今、考える時間がほとんどない事だ。次から次へと命の危機やら王国の存亡やらがかかるイベントが続出で、他人のことも自分のことも含めて、一つ一つの感情を振り返り、見つめ直すヒマなんてありゃしない。時折こうして酔いに任せてぼんやりすることが出来れば幸せなくらいで、あとはただ、流されていく。

こうして、明日も僕は何食わぬ顔して仲間におはようといい、モンスターを倒しながら黙々と行進するのだろう。でも、それもいつまで?

…ああ、だめだ、思考がまとまらない。疲れているな。



気がつくともうすっかり夜。王女様はワイン以外の酒を飲み始めた僕らに、私寝るわ、明日早いもの、と自分の部屋に戻っていった。共同食堂の雰囲気も酒場に近くなってきている。

「お前、ちょっとさっきから飲み過ぎてないか?明日早いんだぞ。」
イグナシオの声がぼんやりと遠くから聞こえてくる。確かに、立ち上がると、ふんわりと空間がゆがみ、まるでルーラをとなえた後のような気分。マズイ。

階段をよろめきながら、それでも一人でちゃんと上って部屋にたどり着いたのは覚えている。その後のことは切れ切れにしか覚えていない。


* * *


翌朝目が覚めたら頭が割れるように痛くて、酒臭くて、しかも服を着ていなかった。そして隣には……ああ、ルビス様。

寝そべったまま、動けないでいると、むくりと王子様が起き上がり、重そうな頭を抱え、クソ、昨日は俺も結構飲んでたみたいだと一言。
(頭の)痛みに顔をしかめながら、君は一体僕に何をしたんだと訊いたら、それはこっちの台詞だバカ野郎と彼は答え、またベットに沈み込んでしまった。

……僕は一体彼に何をしたんだろう。


というわけで、案の定、僕らは午前中使いものにならず、早朝馬車は逃すしで、王女に怒られた(でも微妙に目が笑っていた。それはそれでいやだった)。

ようやく捕まえた馬車に乗ると、昨晩のせいでお疲れの王子がすぐにうたたねを始める。王女と二人向き合う形になった僕は何となく間が悪い。そんな気持ちを見透かすかのように彼女はにっこりと微笑み、仲直りしたのね、とか余計な事を聞いてくる。

誕生日の夜のことじゃなくて、慣れない武器のことで機嫌悪かったみたいだよ、とため息をついて、僕。
あら、そう?と王女はルビーのような色の目を見開き、次に、低い声で意味不明なコメントを一つ。
「なるほど、彼の表層意識ではそういう理由づけがなされているのね。」
そのまま、一人で納得してしまった。おい、何か違うぞ。でも頭が痛いので僕は思考を放棄。

そしてふと、昨夜から何となく考えていた事をふと思い出して、言った。

「君の誕生日とイグーの誕生日、近いんだってね。彼から聞いたよ。今度こそ、盛大にお祝いしよう。」

前回は僕らが出会う前に間に過ぎてしまったのだ(イグナシオの誕生日には一緒に飲んだ)。

実はこう言うべきかどうか、少し迷った。祝えば尚更、かつてそばに居た人が皆居ないということを残酷にも思い出させるだけかもしれない。だけど、僕にはこうする事しか出来ない。沈黙は苦手だ。言いにくい事も一つ一つ言葉にして、形にして、確認しながらしか前に進めない。それで誰かを傷つけてしまったそのときには、真摯にうなだれて話を聞くしかない。

「あなたも優しい人ね、カリム。」

王女はふっと柔らかく微笑んでそう言ってくれた。そして、懐かしいものでも追うようなまなざしで流れる外の景色を見やった。僕は彼女の脳裏に浮かんだであろうことを一人勝手に想像して、少し切なくなる。
だがそこは王女様。すぐにくるりと僕の方を向き、ところであなた、だいぶ辛そうよ。少し寝たら?お酒の後遺症にキアリーなんてかけたくないわ、といつもの調子で釘を刺してきた。

わかりましたよと、あくびをして横を向くと無防備な王子様の横顔。昨夜とは別人だ(断片的にだが、記憶アリ)。
まあ、こちらはひとまず友情とH両方ありということにしておこう。そう思い、僕は目を閉じた。



終わり

作者後記

ほぼ下書きが出来てた話を引っ越し前に終わらせちゃいたくて、なんとかUpしました。「そんだけ?」という感じの内容のくせに、長くなりました…。ロレ王子寝てばかりだし、サマ王子はただの妄想野郎だし。飲んでばかりでハーゴンのところに行けるのか?なダメダメぶり。まともな三人を書ける日はくるのでしょうか。いずれにせよ、ここまで忍耐強く読んでくださった方、いらっしゃるとしたら本当に本当にどうもありがとうございます。

なお、これは蛇足ですが、王女の「女の子的」解釈と両王子の「男の子的」思考形式とどっちが正しかったのか、という話はわざとどっちつかずにしてあります。両方かもしれないし、または一方(剣技の不振もしくは誕生日事件)が他方のストレスを誘発したのかもしれないし、もしくはサマ王子やムーン王女がそれぞれ考えてるように、どちらかが単に勘違いしてるのかもしれません、とゆうわけです。(2004年10月23日)


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