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 王女様との会話

1.

「あなた達って、不思議よね。仲がいいのかしら、悪いのかしら。」
と、ある日突然王女様がのたまう。

「あ、あなた達…って?」
しまった。不意打ちに一瞬狼狽したのは一生の不覚。王女の視線が僕を無慈悲に貫く。心なしか、目が笑っているようにみえて、いやだ。

「もちろん、あなたとイグナシオのことよ。」
「王女には、僕らが仲悪いようにみえる?」
「見えないわ。」

ふわふわと、笑みを含んだ彼女のまなざしが僕の周囲を舞う。長い睫毛に縁取られた切れ長の深紅の瞳。彼女は今日もとってもきれいだ。そして、いつも通り、何事にも我関せずという顔で言いたい放題だ。
いや、むしろ最近エスカレートしている気もする。最初の頃なんて会話の糸口を探すのに一苦労、という感じだったのに、慣れてきて警戒心が低くなると、普通なら口に出しづらいようなことまでズケズケと訊いてくるようになった。

「そう、僕たちは仲良しですよ。」
僕は胸を張って言う。
「とぼけているのね。」
王女は容赦ない。
「イグーはあなたのことだいぶ好きよね。でも、あなたは?」
「僕?彼はいい仲間と思っているかな。」
嘘はついていない。決して。
「じゃあ、あなたは単に彼の身体が目当てなのね。」
「…王女。」
いや、まあ、そうともいうけど…。でも、なんでそう単刀直入かな?この人、プライバシーの概念ってないんだろうか。ないんだろうな。ムーンブルク王族は衆人環視のもとで育つもんな〜。

「イグーが何をどう言ったのか知らないけれど、僕には僕なりの、哲学とゆうものがあるのです。とにかく、これは僕ら二人の問題なので。」
面倒くさくなったので、適当にけむに巻いた上で軽く拒絶することにした。王女は一瞬憮然としたが、すぐにいつものしれっとした表情に戻り、そう、と短く答えてそっぽを向いた。
あ、ちょっとまずかったかな。でも、説明するの鬱陶しいんだもん。特に、文化とか風習とかがいまひとつ違う人相手にこういう話って、僕は避けたい。

というのも、昨今のサマルトリア(の特に貴族)には男女を問わずフリーセックス文化が花盛り。もともとサマルトリア人には、体面さえ保てば愛人を何人作ろうが、出会い系仮面舞踏会に通おうがOKというノリがあったけど、それが近年どんどんエスカレートしてるのだ。だから常に、遊びで二度や三度のHくらい、まーいいじゃん、みたいなノリがある。もちろん、避妊と病気には用心する事(家系のために)、また、相手の面子をつぶさないこと、この二つは礼儀として遵守せねばならないが。

…なんてことを、ムーンブルクの王女サマに説明するのもねぇ。


そもそも、僕らがヤったのって、そんなにない。いつかの酒場で一回、そのあとしばらく間が空いて、半年くらいしてからやっぱり酔って一回、んで…あ、こないだか。それでも一ヶ月くらい前回と間が空いてる。合間に彼も僕も(決して多いとはいえないが)、多少他の出会いがあったりしたわけで。まあ、旅の空にある以上、合意の上で後腐れなく楽しんだり、というのが前提だったけど。


でも、そういえば、その後あまり彼と話してない。あれ、なんでだっけ。

ふと、僕は思い出そうとするが、記憶は空白。

「カリム、一度言おうと思ってたのだけど。」

しばらくだまーってあさってのほうをむいていた王女が、不意に口を開く。
「あなた、もう少し他人の心の機微ってものに気を使った方がいいわ。」

君がそれを言うのですか…王女様。向かいの武器防具屋の若旦那がせっかく秋波送ってるのに、詫び寂びどころか情け容赦もなく完全無視を決め込んでる君が。

「私の国でも、同性同士による性的な関係は古来よりの慣習として比較的認められているのだけど、でも、もう少しこう…情感というものを大切にしててよ。」

ああ、そういえば、ムーンブルクも同性愛もしくは同性間の性行為に寛容なのだった。いや、法制面の整備はサマルトリアよりも進んでいるとさえ聞いた事がある。ただし、うちよりも貞節にはうるさいらしい。

「はぁ。では、王女は、僕が彼の気持ちを全然わかっていない冷たい男だ、と思うわけで?」

「そこまでは言わないけれど、それに近いものがあるわ。…こういう一般化はしたくないけど、どうも、サマルトリアの方々を見てると全般的に、現世の欲や体面、快楽にばかりこだわってて、スピリチュアルなものへの感度が低い気がするのよね。あなたも若干その傾向があるわ。」

なんつーか、すごい一般化だ。仮にも外交の要たる王族がそれでいいのか?

「…いったい、彼はあなたに何を話したんです?」

「具体的なことは特に聞いていないわ。でも、二、三日前から彼、機嫌悪いじゃない。何となくそう感じたのよ。」

「それ、理屈になってないと思うんだけど…。」

「人に説明を求める前に、自分の胸に聞いてみる事があるのではないかしら?」

そして、言うだけ言っておきながら、あら、もうこんな時間。店が閉まる前に道具屋に行かないと、と王女は慌ただしく出て行った。回復呪文だけでは味気ないといって、街に着くごとに薬草を買いたがるのは相変わらずだ。

僕は昼下がりの宿屋に何となく取り残される。一人ぼんやり魔術書を眺めてみるけど、どうも集中できない。暖かい季節なので夕方というのにまだ日は高い。結局あてもなく散歩に出る事にした。


続く

作者後記

たわごとのような話になりそうです…。王女って動かすの難しいかも。

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