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 俺たちの旅が終わる日


ここにいたんだ。

見上げると見慣れた顔。俺は座り込んだまま、おお、と締まりのない返事をした。
支度は済んだのか。
うん。さほど荷物は無いからね。

やつが俺の傍らに座り、俺たちは二、三、他愛の無い話題で言葉を交わす。今日は空が高く青い。風も暖かい。もうすっかり春だ。ローレシアでは既に木々をやわらかな若葉が彩りはじめている、少し北にあるこいつの国ではそろそろクロッカスの咲くころだろう。

王女は?
あっちで、待っているよ。君も見送りにきてくれるんだろ?
ああ…。
ロンダルキアからの航路の関係上、俺たちはまずローレシアに凱旋したのだった。その後すぐ勝利の宴やら何やらが続き、早くも半月が経とうとしていた。戦いの傷も癒えた。俺はここにとどまるが、やつらは本来居るべき場所に戻らねばならない。

なんだか名残惜しいな。
やつが微笑んだ。俺は柄にもなくふと胸がしめつけられるような感覚を覚えて目をそらす。周りにちらほらと咲いている野の花の白やら黄色やらを意味もなく、見つめる。

遠くで馬のいななきがした。
そろそろ出発、かな。
やつが立ち上がり、目をこらす。城の庭は広く、入れる人の限られているので人影はない。迎えの馬やら馬車やらが城門付近まで来ているのが、生け垣に囲まれた果樹園が視界を邪魔している。

もう、行くのか。
俺は傍らの立ち姿を見上げる。少しのびた亜麻色の前髪が風になびいている。新調した法衣の深い緑が陽光に鮮やかに栄える。

また、すぐ会えるよ。少なくとも、サマルトリアはこことそう遠くない。王女とは…少し会いづらくなるかもしれないけど。
やつが少し前にかがみ、右手を俺の左肩にそっと置いた。

あのさ、

ふと、俺は何かが言いたくなった。
やつの翠の瞳が俺をとらえる。そして、自分でも予想しなかった言葉が口をついて出た。


俺の事、ちょっとでも好きだった?

一瞬の沈黙。

やつの顔から笑みが消えて、何とも形容しがたい、別の表情が浮かぶ。俺は、肩に置かれた手に自分の手を重ねた。それが合図であるかのように、王子が膝を折ってゆっくりとひざまずく。そして、何も言わず俺にキスした。
唇だけが触れるような、軽いやつで、そういえば、こいつとはこういう風にした事なかったな、と俺は今更ながらぼんやり思い出した。

サマルトリアの遊び人王子、しかも両刀使い。もともとは男にキョーミなかったはずの俺を仕込んだのはこいつだ。

でも、俺らの関係は結局、ただのヤリ友みたいなもんだった。つまり、酒とか欲求不満とか、何かの弾みで突発的に楽しんで、騒いで、きっかけが無くなったらそれで終わり、そういう感じだ。俺にはそれがよくわかっていた。

結局こいつが誰を見てたのか、俺には今でもよくわからないのだった。王女が好きなのかと思ったときもあったが、それも少し違うようだ。まあ、王女と同じで、色恋どころじゃなったということなのかな(そのくせ、三人の中で一番お盛んだったのはやつなんだが)。
まあ、いいさ。とりあえず俺は楽しんだ。

唇がそっと離れて、目を見開くと薄い色の睫毛に彩られた伏し目がちの翠の瞳。ごく単純に、きれいだなと俺は思う。ぼんやりしていると、やつがぽつりと言う。

よく、わからないや。

そうか、と気の抜けたような声で、俺。

でも、君といるのはいつも、楽しかったし、きっとこれからも…そうだと思う。

ふとその声が真剣な響きを帯びて聞こえて、俺は少しびっくりする。しかも王子は俺と目を合わそうとせず、伏し目がちのまま横をむいた。そしてそのまま、自分の頬に俺の額を押し付けるようにして、俺を抱きしめてきた。気のせいか、横顔が一瞬泣きそうに見えてどぎまぎしたが、別に泣いてなかった。

俺もまた、そうか、と間抜けな返事を繰り返し、抱きしめ返してみた。
台詞の上では、まるで俺がふられてるか、かわされたみてぇな展開で、実際そうなのだろうが、キスとか抱擁とか、昼間のこの時間帯に出来ることは互いに全部やってる。いかにもやつらしいし、俺らしい。

そよ風が髪を撫でていく。体温が心地いい。
ああ、春だな。


そのまま二人とも、随分長い事、そうしていた。






時間がどのくらい経っただろう。遠くから、呼ぶ声がした。

もう、行かなければ。

何かを振り切るようにして、やつが俺から身体を離す。俺は名残惜しいのを隠しもせず、やつの手を握ったままだ。顔を見合わせて、二人で笑う。

見送りにきてくれるんだろ。

そういって、やつが俺の手を握り返して少し強引に引っ張り上げた。出会ったとき頼りなく感じた手は、もうしっかりした男の手になっていた。ああ、一緒に長い旅をしたんだなと今更ながら色々思い出した。

立って向き合って、適当な言葉が見当たらなかったので、あのさ、色々ありがとうといったら、向こうが何を今更、とめずらしく照れたような顔をした。あ、俺はこいつのこういう表情をもうちょっといろいろ見てみたかった気がするな、と思った。

でも、うまく言えないので、まあいいや。



そして俺たちは手を離し、ローレシアの王子とサマルトリアの王子として歩いていった。





作者後記

まだ一度もクリアできた事ないのに、こんなん書いちゃいかんですね。
しかも、王女出てこないし…。
もっとまともなの書けるようになりたいですが、どうもメンタル面で低調なんで、きびしい。私生活でももうすぐ遠いところに引っ越します。ちょっと色々あって疲れ気味かも。

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